新しい労働社会
――雇用システムの再構築へ

著・濱口桂一郎

先生の知人、通称hamachanさんの著作。単行本と思いきや、意外にも新書だったので驚いた。ですます調で書かれているので、辛辣な批判も穏やかに読むことが出来る。なお、本書はタイトルどおり日本の労働問題を中心に書かれているが、3章では教育や住宅など社会保障の問題にも触れられている。私は卒論用にそこを重点的に読んだので、ここでも教育を中心に書こうと思う。

教育の目的とは人を“将来使える人材”にすることである。著者も教育の本質を「職業人として生きていくために必要な技能を身に付ける(pp.147)」と述べている。つまり教育とは未来の労働者を作ることを意味する。ということは、教育の問題は間接的に労働の問題とつながっていることになる。本書は日本型雇用システムが年功賃金制から能力主義へ変化したことにより、教育コストの担い手も企業から社会へ変化したことを指摘している。

教育費は高等教育になるほど高くなる。即ち子どもの年齢が高くなるほど教育費も高くなるわけで、それとともに労働者本人の年齢も当然高くなる。年功賃金制であればそのような教育費含めた生計費を、企業が年齢に比例する形で保障してきたが、これによって学校教育の内容が職業に直結する必要が無くなり、教育は消費財的性格が強くなった。企業内訓練に耐えられるような人材になれさえすればいいのである。これが能力主義になったことによって企業の保障が不安定になり、さらには職業能力を高等教育できちんと身に付けなければならなくなった。したがって今後は教育費を社会で支え、高等教育で職業訓練をする仕組みが必要であると著者は主張している。

教育問題を扱った論文では、階層差・階層固定化から教育格差(学力格差)を論じたものが多いため、労働者の賃金形態から教育費の問題を論じた本書はとても新鮮だった。高等教育における職業訓練を重視することに違和感を覚えた私はまだ頭が固いのかもしれないが、少なくとも卒論の視野を広げる良いきっかけにはなった。私費負担の高い日本の教育は今後どうすれば良いのか。と書くと自動的に「社会が教育費を負担する」という答えになりそうだが、その制度の細部についてもっと悩むべきだと思い直した今日この頃である。


(1.5点)